空のいろ

本、映画、TVドラマの感想を書いてます。悪性リンパ腫になってしまいました

湊かなえ著「リバース」。被害者広沢君はどういう人だったのか。

2017.5.13.
深冬です。
今季のドラマ「リバース」の先が気になって仕方がなく、原作を買ってしまいました。
読むかどうかのジレンマを感じていた時の私は、こちら。

ドラマ「リバース」、原作未読。今読むべきか、読まざるべきか・・・ - 空のいろ


警戒していたほど、苦しい気分にならずに読めました。
ドラマで話の出だしを知っていたからかも知れません。

ドラマとの一番の違いは、主人公たちの年齢。
原作は事件から三年しか時間が経っていません。

ドラマを楽しんでる最中だから、余計なことを知りたくないと思っている方は、ここから先は回避してください。
ドラマの感想は、最終回を見てから、と思っています。

■アマゾン
リバース (講談社文庫)


楽天



ネタばれ注意! 犯人まで書いてます! 知りたくない人は回避してください。



この物語のあらすじは。

深瀬和久は、子供のころから人付き合いが苦手だ。
そんな彼に、自分を人殺しだと告発する文書を突きつけられた。
就職して二年目の春、自分が求められていないと感じている深瀬。特技の「おいしいコーヒー淹れ」で、職場での自分の居場所を確保しようとしている。そんな彼にも、やっと彼女ができた。行きつけのコーヒーショップのマスターの奥さんが間を取り持ってくれた、パン屋に勤めている女性、美穂子だ。
その美穂子のもとに告発文書は届いたのだ。
心当たりがあるのは、三年前、親友の広沢が亡くなった事故のことだけ。
人づきあいが苦手な深瀬にできた唯一の親友だ。大柄で、おおらかで、マイペースな広沢とは何気ないことを楽しく過ごした。一度、彼の実家から送られてきた大量の蜂蜜をもらったことがある。コーヒー好きの深瀬に、蜂蜜を入れるとおいしいことを教えてくれたのも広沢だった。
深瀬は彼女に、三年前の事件の話をする。
大学の同じゼミを受けている5人で旅行をすることになった。親戚の別荘を貸りたという村井が、遅れてくることになった。後から合流することとなり、深瀬を含む四人で先に車で出た。ドライブは学生らしく進み、深瀬が事前に調べていた名物にも盛り上がったが、昼食時、広沢が昼食をみんなとするのを拒否してきた。
蕎麦よりも、自分が好きなカレーが食べたいと言い出したのだ。広沢が好みそうなカレー店がそこにあった。どの店を選ぶかの押し問答があった末、結局、広沢だけがカレー店に行ってしまう。
その後は気を取り直し、また名物や、夕食用の食材を買い込んだりと楽しんだ。
雨が降ってきたのはそれからだ。細い山道が続き、やっと到着。食事を楽しむ。そこで、酒を勧められた深瀬は、アルコールが駄目なことを説明。
食事が終わったころ、遅れていた村井が最寄り駅まで来ているから迎えに来てくれと連絡してくる。田舎だからタクシーも見つからなかったのだ。
免許を持っているのは、二人。浅見と広沢。でも、どちらも酒を飲んでしまっていた。教師としての就職の決まっている浅見は断固拒否。その浅見に頼まれ、広沢は迎えに行くことを承諾する。
それに理不尽さを感じながらも、送り出す際、深瀬はコーヒーを淹れて渡すことしかできなかった。
やがて、村井から迎えが来ないと連絡が来る。もう到着しているはずの時間を大きく超えている。
浅見と谷原が探しに行き、深瀬は連絡係として家に残されるが、結局心配になって探しに出たが、走っているうちに気を失う。
車は谷底で発見され、広沢は炎上した遺体で見つかった。
深瀬の美穂子は、この話で深瀬に共感できず、距離を置くようになった。
また、職場でコーヒーを入れることを存在理由に過ごす日々が始まった。美穂子と会っていた行きつけの店にももういけない。
そんなある日、自分以外のあの旅行のメンバーが告発状を受け取っていることを知る。それどころか、谷原は駅のホームから落とされ、辛くもホーム下に飛び込み難を逃れていた。
危険な状態であることは明白だった。
四人は相談し、犯人探しをすることになった。
深瀬は、親友だと思っていた広沢が、自分と同じ人づきあいが苦手なタイプだと思っていたが、実はゼミのほかの仲間ともそれぞれに付き合いがあったと知って、複雑な感情を抱く。
そうして広沢のことを知るため、彼の実家や同級生に会っていくうちに、広沢が頼りになる人物であったことを知る。そして、就職せずに、卒業したら世界を見て回りたいと親に相談し、反対されていたことも。旅行の時に一人だけカレーを食べに行ったのは、蕎麦アレルギーだったからということも知った。自己中で一人行動を別にしたわけではなかったのだ。
親友だと思っていた彼のことを、全く分かっていなかったことを思い知る。
そしてとうとう「犯人」を見つけた。
深瀬が付き合っていた美穂子だ。彼女は、広沢の恋人だった。広沢の死後、何もなかったかのようにふるまう四人が許せなかった。それが告発状を出した理由だった。そして、広沢もことを本当は良く分かっていなかったのは、美穂子のほうも同じだった。
広沢は、自分を空っぽだと美穂子に言っていたそうだ。二人で広沢をもっと知ろうと、再び歩み寄よる。
行きつけのコーヒーショップで、マスターの奥さんに勧められて蜂蜜の種類を見せられた。
その一つに蕎麦の蜂蜜があった。
深瀬は、事故があった日、広沢に渡したコーヒーのことを思い出した。蜂蜜を入れた。地元産のもので、ラベルは貼られていなかったが、同じ色をした蜂蜜だった。
広沢は蕎麦アレルギーだった。
深瀬は、彼を殺したのは自分だったのだと知った。


解説に、このミステリーがどういうカテゴリーに属しているものかはよくわかります。
物語の制作にあたって、「主人公が、犯人が自分であることが最後の場面」であるという縛りもあったようです。



個人的な感想ですが。

湊かなえさんの他の著書と違い、警戒していたほど、今回の本には、キリキリさせられてしまうところはなかったように思います。
人づきあいが苦手な深瀬くんが、たくさんの人に出会い、話を聞き、動揺しつつも、「大人」になっていくのを、突っ込みをいれながら堪能できました。
ただ、すっきりもしないです。

「人殺しだ」という告発文をめぐる謎を軸に、深瀬くんが、改めて多くの人から広沢くんがどういう人かを語られ、やがては自分で聞き出していきます。
だから、『広沢くんとはどういう人だったのか』、を知る物語かなと思い、そんなふうに読んでいたのですが。


作者の湊さんは、広沢くんを、登場人物たち自身をうつす鏡と意図しておられたようです。

広沢くんは、空気を読んでいるようで、マイペース。

一年間世界中を旅したいというあたり、「自分探し」するつもりだったのでしょうか。
この年代の若者らしいと言えばそうです。


でも、美穂子ちゃんが語る広沢くんは・・。

広沢くんは、自分を空っぽだと言っていた。
広沢くんは、自分が本当に好きにも嫌いにもなれるものはないのではないかと言っていた。
広沢くんは、古川くんや深瀬くんといると、居心地いいと言っていた。


なんと、広沢くんの正体は「俺様」でしたか、と私は思ってしまいました。


努力しても、報われないことがあるから、努力はしない。リーダーシップをとるということは、責任を負わなければいけないから、しない。自分の知り合い同志を引き合わせて、何かもめごとでもあったら、仲裁をすることになるだろうから、引き合わせない。古川くんや深瀬くんのような要求をしても、すぐに引っ込めるタイプは面倒がないし、なんでも報告してくる嘘のない態度は探り合いがなくて楽、居心地がいい。


意地の悪い見方かもしれません。でも、これは若者に限らないように思います。
そういう意味では、広沢くんは「鏡」かもしれません。誰だって、多少はそういうところがあると思いますから。


ただ、それでも疑問がひとつ。

蕎麦アレルギーのことを、一緒に旅行に行った誰もが知らなかったなんてあるでしょうか。
一緒に食事をすることは何度もあったはずなのに、一度もその話をしないってことあるかな。
アレルギーの人って、それを隠そうとするのでしょうか。

私が会ったことのあるアレルギー持ちの人は、食事の時に真っ先に言ってきました。自分でも気づかず食べてしまわないように。
自己紹介とかでも、言ったりしませんか?
言えない人もいるのでしょうか。もしいるなら、隠さず言って欲しい。その人だけのためでなく、もし、全然違う場所でそういう事態に遭遇した時に、役立つ知識でしょうから。


広沢くんは、旅行の昼食の時に、蕎麦アレルギーだっていえば、誰もが納得したはずなのに、言わなかった。
深瀬くんが、アルコールがダメな理由を言ったとき、自分のことを言える流れもあったのにそうしなかった。


これは物語に、「犯人」についての縛りがあったせいでしょう。
これがなければ、もっと湊さんヒリヒリする物語ができたのではないかと、思ってしまいました。