空のいろ

本、映画、TVドラマの感想を書いてます。悪性リンパ腫になってしまいました

戦う映画「アイ,ロボット」と、戦わない原作アシモフ著「私はロボット」

2017.5.3.
深冬です。
4日の深夜、日付を越えた5日の1時5分から、テレビ大阪で「アイ,ロボット」をやると知り、そういえば最近「ロボット三原則」を聞かなくなったなぁと思って、原作の「私はロボット」を再読、斜め読みをしました。
正しくは「ロボット工学三原則」でした。
テレビ放送の方は、地方局なので、大阪周辺だけの放映かもしれません。

映画の「アイ,ロボット」は、2003年に公開されてます。
ハリウッド映画らしく、アクション満載。主人公の刑事スプーナーはロボット嫌いで、そうなった悲しい出来事があります。スプーナーは、事故のため体の一部が機械のサイボーグで、そうして助けてくれた恩人が、自殺したことを疑う事ところから、ストーリーは走りだします。
この映画では、ロボットの反乱は、ロボット工学三原則を拡大解釈し、ロボットが、人類を「保護」するために支配しようとし始め、それに対して戦いが起こるという流れになってます。


ありがちですが、映画は、アシモフが書いた原作とは、全く違います。


原作の方は、このロボット工学三原則のおかげで、戦争の無くなった世界が描かれます。少なくとも、この物語の終わりまでは。

トーリーは、ジャーナリストが、長くロボットの世界に貢献してきたロボット心理学者スーザン・カルヴィンから、裏話を聞きだす形で進みます。
違うロボットについての話が9編、一話毎にロボットは改良されています。
高性能化していくロボットと、人間のつきあい方が変わっていく様子が描かれます。ミステリーっぽくなっている話もあります。

最初の話は、人の形をしていますが口が聞けない子守り用ロボットです。
今書かれていたなら、最初のロボットは介護ロボットになっていたかも。

この本が出版されたのが、1950年。
第二次世界大戦が終わってから、まだ5年。
アシモフやその時代の人たちがどんな未来を描いていたか、よくわかります。
この頃は、共産主義者の排斥運動もすでにあったのではなかったでしょうか。ですから、「ソ連」も本には出てきますが、未来の描写は、アメリカ政府が文句を言いにくい形にしたのかなと勘繰ってしまいそうなところもあります。

最初の子守りロボットの登場は、1996年に販売されてます。
アトムより早い!
こういう「何年か」というのは、流して読んで頂くといいかと。

「ロボット工学三原則」のジレンマ。
面白いです。


さてこの本ですが、いろんな出版社から、色んなタイトルで出されてます。
ハヤカワSF文庫は、「われはロボット」
創元SF文庫は、「わたしはロボット」
角川文庫は、映画と同じタイトル「アイ,ロボット」。これはまだあるのな?
子ども向けの本では、「うそつきロボット」なんていうのがあるようです。うそつきロボットのエピソードは確かに教訓的だから子供向きかも知れません。

私が持っているのは、創元推理文庫の「わたしはロボット」。1983年の12版です。
当時はミステリー枠だったんです。創元さんに単にSF枠がなかったのかな?
でも、スーザン・カルヴィン博士は、ロボット心理学者として謎を解いて行くので、未ステリーなのは確か。


私が好きな話は、「堂々めぐり」。三原則のジレンマの話です。
それから、第一原則が一部入っていないロボットを探し出す「迷子の小さなロボット」。カルヴィン博士とロボットとの心理戦です。


ロボットを改良していくことにより、社会そのものも変わります。
ジャーナリストが相手にしているのは、ロボット心理学者だから、どうしてそんな社会システムになったかという政治の話は全く出てきません。


ロボットの進化によって作られる世界は、「ユートピア」的で、ありえないけれど、それぞれの短編は面白いです。

「ロボット工学三原則」の机上の実験をしているような物語ですが、一つ一つはとても面白いです。ユーモアとロボットへの愛情があるせいでしょう。


映画とは全く違いますが、古典SFに興味が持てそうだと思った方は是非。


■関連
「ユートピア」(トマス・モア著)は、16世紀初頭の怖い話。 - 空のいろ


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