空のいろ

本、映画、TVドラマの感想を書いてます。悪性リンパ腫になってしまいました

ローラ・インガルス・ワイルダー著「大草原の小さな家」は、シリーズ第一巻じゃないのです。

2017.5.3.
深冬です。

大草原の小さな家シリーズは、いろんな出版社から出ていますが、私が持っているのは、福音館文庫岩波少年文庫のものです。挿絵がガース・ウィリアムズだからです。
子どもの頃、買ってもらった単行本の「大きな森の小さな家」の挿絵が彼だったのです。
ちょっとした感傷でございます。

同じ作者の同じシリーズが、どうして違う出版社からでているのか。
大人の事情なのでしょう。気になるところではありますが、本の話の方が好きなのでそちらを。


昭和生まれの方なら「見た!」と言う方も多いかもしれません。このシリーズを原作としたTVドラマが1975年から1982年にかけて放送され、大ヒットしました。
私としては、「原作」と言うより「原案」だよね、と思うくらいドラマはどんどん原作から離れて行きましたが・・。

だから本好きの人で、TVドラマしか見ていない人には「大草原の小さな家」だけでも試しに読んで欲しいなぁと思います。
開拓者の生活が、実際どんなふうだったのか、主人公を通してわかります。父親は、当たり前に、自分で家を建ててるし。「大草原の小さな家」ではその経過が描かれてます。

私は子供の頃、「大きな森の小さな家」しか読んでいませんでした。
大人になってから読んで、もっと早く読めば良かった!と思った本の一冊です。

そしてこのシリーズは、色んな意味で興味深いです。
当時の人の差別意識が、意識的に、また無意識に描かれてしまっています。
あの時代に生きた人の考え方を知ることができます。
アメリカじゃ発禁になってないのかなと思ってしまう場面が、なきにしもあらず、です。


主人公ローラは、活発な女の子。優等生な姉のメアリに少々コンプレックスを持っています。
ローラの「活発さ」は、「無謀」と「勇気」の間でくるくると変わります。どちらにしても「大草原の小さな家」のローラはまだ子供なのでハラハラさせられます。


著者であり、主人公であるローラ・インガルス・ワイルダーは1867年2月生まれ。
架空の人物ではありますが、「赤毛のアン」の主人公アンは、1866年生まれと推定されますから、同年代の話ということになります。
これを知るまで、私は、ローラの方が時代は前だと思っていました。
西部開拓者の生活と、定住した農場経営者の生活の違いって大きい・・・。


赤毛のアンについては
「赤毛のアン」が嫌いでも、「アンの友だち」と「アンをめぐる人々」は楽しめると思う - 空のいろ


■他のお勧め児童書は
サトクリフ著「ともしびをかかげて」は、大人にもお勧めの児童書。 - 空のいろ



ここからは、エピソードばれしないようにしたあらすじです。
ご興味のある方、お進みください。
ご参考になれば幸いです。

第一作目「大きな森の小さな家」のローラは5才。両親と、姉と妹の五人暮らし。
森の中で、本当に家族だけで住んでいます。親戚との行き来はありますが、基本、家族だけで日々の暮らしを送っています。大変には違いないでしょうが、とても幸せそうでもあります。

この時代がたぶん、この一家にとって、一番平穏な時期だったのではと思います。
とは言ってもこれは、私の視点。
開拓者であるローラの父チャールズは、周辺に人が住み始めると、西への移住を決意します。

大草原の小さな家」は、ローラは6才かな? 大きな森からの旅立ちから始まります。道中が大変なのはもちろんですが、ここに住むと決めた地に自分で家を建てしまうのがすごい。
命にかかわるような大変なことや、お楽しみがいろいろと盛りだくさん。
でも一家にとって一番の不安は、今はネイティブ・アメリカンといわれているインディアンです。
家を建てたのが、彼らのテリトリーの近くだったからです。
そこに住んでいたネイティブ・アメリカンは、結局その土地を去ります。
心配事が無くなって、畑も整い、すべて順調だったはずでした。けれどローラたちが住んでいるのは、政府が決めたインディアンテリトリーを超えていたため、強制撤去されることになってしまいます。
また一から始めるために、一家は旅立つことになりました。

この話では、ネイティブインディアンが去っていく時の列が本当に長くて、虚無を感じさせられます。彼らのリーダーの、誇り高い態度がせめてもの救いです。
インガルス家が出て行かなければいけなくなる時には、父チャールズの無力感を振り払うような怒りがよく伝わります。

そして彼らが次に住む家は、なんと横穴式住居。すごい。

「プラム・クリークの土手で」は、横穴式住居に住んでいたひとから、それを譲り受けるところから始まります。まだ7才のローラには、その辺のいきさつは知らされませんから、読者もわかりません。
でもその家は、せまいけれど清潔で住み心地の良いところだったようです。そこにしばらくすんでから、また木で出来た家にお引っ越し。
開拓者の暮らしは、ローラの子どもらしい冒険と相まって、本当に大変。それが生き生きと描かれています。
姉のメアリとローラは学校へも行きはじめます。家族と少しの隣人としか付き合いのなかったローラには大きな試練となっていきます。

四作目「シルバー・レイクの岸辺で」では、ローラは13才くらい。猩紅熱の後遺症でメアリの目が見えなくなっていると、読者に知らされて始まります。
そしてこの土地に魅力を感じなくなっていた父に、西部へと誘いがかかります。鉄道工事現場で事務仕事をしながら開拓地もさがせるという話に当然のって、一家は新たな暮らしへと乗り出します。
人の多い所へ行けば、多い所なりの苦労や試練が増えます。特に両親は、たいへん。キャロラインは、とても勇気あると思えるエピソードがあります。
苦労はしましたが、ちゃんと開拓地を手に入れ、そこに住み始めます。
この巻からは、妹キャリーもしっかりしてきて、みんな成長しているんだと改めて思います。

「長い冬」は、13才か、14才。タイトル通りの話です。
思いがけず早くやってきた冬の気配。
ネイティブ・アメリカンが、冬が七か月間続くと経験上からの警告をしてくれます。
本当に大豪雪の冬がやって来て、食べるものも燃料も少なくなっていくのに、汽車が雪の事故で来ない。
誰がどんな行動を起こすかが描かれていきます。
グレイスが風邪をひかなくてよかった。きっとものすごく用心深く生活していたのだと思います。
最後はハッピーエンドですのでご安心を。

「大草原の小さな町」では、ローラはとうとう賃金を稼ぐ働き手となります。
家族の目標は、メアリを、目が不自由な人のための大学へ入れる事。一家の財産の問題をローラも共有できる年齢になったわけです。メアリとの会話も子供っぽいものではなくなってきています。
でも、ローラはローラ。強気で問題も起こします。
メアリは念願の大学に行くのですが、全寮制です。両親もメアリも大変な決心が必要だっただろうと思います。
ローラには恋の予感も。
そして、とうとうローラは教員免許を取ってしまうのです。

前の巻とは違い、今回は当時のアメリカらしい楽しみもたくさん描かれます。良くも悪くも、ですが。

「この楽しき日々」は、ローラの初めての教員生活で始まります。他人の家に下宿をするのも初めてのローラ。週末にはアルマンゾが必ず迎えに来て、家に連れて帰ってくれる。そして彼と少しずつ距離を縮めて行くのですが。じれったい! でも、ローラの両親がどんな人か知っていたら、近づき方は、亀の歩みを選んで賢明だったかも。
メアリは、大学を卒業して帰ってきます。
一方で、ローラは学校を退学します。
教員免許がある事と、学校を卒業することは別の話みたいです。ローラなら飛び級も出来たはずなのに、そうさせなかったことを先生は無念に思ってくれました。
退学理由は、結婚!
ローラとアルマンゾは、祝福されて結婚します。

そして最終巻「はじめの四年間」はタイトル通り、結婚してから四年間の波乱万丈ぶりが描かれています。
アルマンゾが、楽観的すぎて心配!

この「はじめの四年間」の話の長さは、「この楽しき日々」の半分しかありません。
「長い冬」のあの描写を思うと、随分あっさりとしています。
私の勝手な想像ですが、これまで執筆に駄目出しをしていたローラの娘、ローズが手を引いたのではないかと。


ローズあっての、「大草原の小さな家」シリーズだったのかもしれません。


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大草原の小さな家 ―インガルス一家の物語〈2〉 (福音館文庫 物語)

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