空のいろ

本、映画、TVドラマの感想を書いてます。悪性リンパ腫になってしまいました

サトクリフ著「ともしびをかかげて」は、大人にもお勧めの児童書。

2017.12.28.改稿
深冬です。
ローズマリ·サトクリフの大ファンです。

「ともしびをかかげて」を初めて読んだのは、小学六年生だったか、中学生になっていたか······。
思春期ど真ん中の頃でした。


この作品は、サトクリフの古代ローマ四部作のひとつですが、独立した物語として読むことが出来ます。

歴史が全くわかっていなくても大丈夫。
主人公アクイラに降りかかる出来事に、ハラハラされどおし。


そして再読するたびに、私はボロ泣きさせられてます。


ざっくりあらすじを紹介すると······

物語の舞台はブリタニア。今のイギリス。

ローマ地方軍団の一指揮官である主人公アクイラが、休暇で実家に戻り、妹フラビアと語り合うシーンから始まります。
アクイラは、しばらく休暇があるはずなのに、その日のうちに砦に呼び戻されます。そして、三日のうちにブリテンから撤退すると聞かされるのです。

ここで、アクイラは大きな決心をします。
ローマ人ではなく、ブリテン人として生きることにしたのです。

けれどローマに対する気持ちも失ったわけでなく。
彼は、消えゆく最後のローマ艦隊を見送りながら、ルトピエの灯台に火をともします。

父の家に戻ったものの、敵に襲われ、妹がさらわれ、家の者たちは全員殺されてしまいます。
大怪我をしていたアクイラは、その場に取り残されますが、別の略奪集団である海賊に奴隷にされてしまいます。

いくつかの出来事の後、アクイラは、敵の妻となっていた妹フラビアの助けを得て、一人脱走します。
彼は、父の襲われた理由が、自分たちの味方であるはずの連絡係の裏切りと知り、復讐を誓いますが、修道士ニンニアスとの出会いにより、復讐をする相手がすでに死んでいる事を知らされます。

全てを失ったアクイラに、ニンニアスは、その穴を父が仕えていた人に会って埋めよと勧めます。

そうして、アクイラは、アンプロシウスに出会う旅に出て、彼と出会い、一緒に戦い、妻を得、息子を得ます。

けれどアクイラは、かつての父の家のような居心地の良い家が築けません。
気落ちするようなことがあっても、戦いは続きます。

そして大戦の中で、アクイラは敵の兵士に妹そっくりな顔を見ます。
自分たちが勝った戦いでしたが、アクイラは、怪我をしたその兵士を見つけ、妹の息子だと確信し、彼を無事脱出させます。

妹の息子の無事が確認できた時、アクイラは、この敵兵を助けたという裏切りを、祝宴の場で主であるアンブロシウスに告白します。この時に、息子が自分の隣に立ってくれました。

先のない未来のための戦いは続きます。
けれどアクイラの家には、かつての父の家のような居心地のよい場所が作れそうな予感を感じさせて、物語は終わります。


泣かされたり、考えさせられたりのエピソード満載。アクイラが灯した灯台の灯りが······、もったいなくてこれ以上言えません。

主人公の波瀾万丈な半生の物語です。
というか、登場人物すべて、波瀾万丈な人生を送ってます。
特に女性たち。主人公の妻は秀逸です。

読んでいて、つい涙が出てしまうのは、私だけではないはず!

大人にもお薦めの物語です。
というか、大人じゃないと理解出来ないのでは? と思う場面もあります。



時代背景について、少しだけ。
いつ頃のことか推察できる個所は、物語の最初の方に出てきます。
アクイラは「最後のローマ正規軍が出て行って四十年」と言っていて、父親は「アエティウスに援軍を求めた」と言っています。

塩野七生さんの「ローマ人の歴史」によると。
四一〇年にブリタニアからの撤退命令が皇帝から出ています。
アエティウス将軍は、四三二年から四五四年まで、帝国を守った人です。

だから四一〇年が、アクイラが言う「正規軍の撤退」でしょう。
その四十年後となると、四五〇年頃ということになります。

ティベリウスは四五一年にはフン族と会戦をしているので、アクイラたちが招集をかけられてもおかしくはないように思います。

日本では、大きな古墳が作られていた頃のようです。


長い目で見ると、アクイラたちの敵であるサクソン人がイングランドを制圧することになります。


これを知って読むと、物語の終わりに感じるものが違ってくるかもしれません。


作者のあとがきも面白いです。
最後の1ページまで楽しんでください。



■ローマ関連の話

「ローマの歴史」T・モンタネッリ著は、文庫本一冊で古代ローマを語る。 - 空のいろ

塩野七生著「ローマ人の物語」は、長いけど面白い - 空のいろ



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