空のいろ

本、映画、TVドラマの感想を書いてます。悪性リンパ腫になってしまいました

「容疑者Xの献身」東野圭吾著、献身したのは誰?

深冬です。

少し前に、BSで映画が放映されていたので、再読しました。
ベストセラー小説ですし、映画にもなっているので、既読の方も多いかと。
あらすじはウィキ先生が良くご存じですので、そちらにおまかせします。

推理小説として、「本格」か「本格でないか」という論争があったそうです。
私、その辺あんまり気になりません。
カラマーゾフンの兄弟」を読み終わった時、まず思ったのが「推理小説だった」ですから・・。
ポンコツです。


ここから先は、読書感想文です。


私は、映画より、本を読む方が先でした。

読みながら、なんか「しっくりこない」と思ったのは、日付の事。途中で一番最初まで戻って探したけれど、やっぱり3月10日しか出てきてない。
でも、まさかそこがトリックとは思わずに、これからどうなるんだろうと方が気になって読み進んで・・・。
日付トリックにはまんまと引っ掛かったわけですが、私は、犯人捜しをしながら読むというより、どんでん返しを楽しみに読む方なので、そこは気にしません。
ただ!!
怖かった!
これは物語だから出来ることだよね。推理小説だから起こる殺人事件だよねと思ってしまいました。
石神式論理的思考、怖すぎです。
それが、親愛の情を寄せる人への「献身」なら、余計に怖い。


物語は、高校の数学教師石神が通勤するところから始まり、花岡靖子と娘美里が、元夫の殺人に到るいきさつが語られます。
自首するか、隠ぺいするか。
計画殺人ではなく、とっさに起こしてしまった行動だから、靖子には何の覚悟もなかったと思う。ただ娘だけは守りたいぐらいしか思いつかなかったはず。
そこにやってきた隣人の手助けの申し出は、天上から下りて来た蜘蛛の糸のように感じたかも。
最初は自分の代わりに考えてくれる有り難い人と思っただろうし、警察と渡り合う緊張と不安で、いっぱいいっぱいだっただろうけど。

世間話なし。業務連絡のみの電話。
読者は、石神の心情を知っていますけど、靖子の立場だったら、ちょっと不気味ではないですか?
共犯意識すら芽生えない気がします。
これも石神の計算の内?!

もし石神がイケメンさんなら、靖子は違う「運命」を感じたでしょう。
でも、石神はそういうひとではない。

だから彼女は、ただの一度も女性としての顔を石神に見せなかったし、そう用心していた。

だから彼女は、真実を知り、娘が自殺未遂をしたと分かった時、出来ることは一緒に罪を償う事だけだと決断した。
これは、石神にとっては、最大級の拒絶なのだけど。


靖子にとっては、「献身」。
石神が、靖子に捧げた「献身」を全否定することにはなるとしても。


そして。
ここからは先は、少々考えすぎの私の勝手な想像です。

容疑者となる「X」は、もう一人いる。
中学生の美里。
彼女が石神の事を本当のところどう思っていたのか。私には、この本からはよく分かりませんでした。
でも、事件の後は、ずっと怖かったはず。
母親である靖子が他の男性とつきあい始めた時には、本気で腹が立ったはず。
こんなときに、何をしてるのって、叫びたかったと思う。
何をしていても集中できずに不安しかなかったでしょう。
その後起こった、石神の自首。
美里がどうそれを受け止めたかの描写はない。
でも迷宮入りになるならともかく、石神が自分の罪を被るとは思ってなかったと思う。
母である靖子は、このまま口を噤むだろう。交際している人がいるから。
でも自分は?
他人に罪をかぶせて平気な顔して生きてはいけない。でも自首は、母を道連れにする事になる。石神がしてくれたことを全部駄目にしてしまう。

美里の自殺未遂は、生き残れる可能性を期待も心のどこかに残しての、母の態度への抗議だったのでは。
それなら、命を賭けての、石神への美里なりの「献身」とはいえないでしょうか。

タイトルを見てると、そう考えたくなりました。


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容疑者Xの献身 (文春文庫)